1. 徳島地裁での無罪判決、女子高生の自転車死亡事故を解説します。
1-1. この記事の目的
この記事では「 徳島地裁での無罪判決、女子高生の自転車死亡事故 」ついて詳しく解説をします。
この記事の目的は3つあります。
- 徳島での女子高生の自転車死亡事故ついて概要がわかる。
- 徳島での女子高生の自転車死亡事故ついて民事上の対応について理解できる。
- 自転車事故の現状がわかる。
早速みていきましょう。
出島Z
損害保険業界に10年居座り続けてしまった出島Zです。元々は生命保険の営業を行っており、その後某外資系自動車保険会社に入社し、交通事故の査定業務、示談交渉を行なっていました。物損担当者・人身損害担当者を経験し、年間600件以上の交通事故を解決に導いてきました。正確に数えてはいないですが、トータル5,000件以上は確実に示談を行ってきました。損保を2社渡り歩きました。FP資格、損害保険募集人(自動車保険、火災保険、傷害疾病保険)、生命保険募集人、共済募集人、高校教員免許保持者。趣味は音楽鑑賞、作成、DJ、ブログ、インテリア、グラフィックデザインです。
2. 徳島での女子高生の自転車死亡事故の概要
2018年8月に徳島県松茂町の国道11号交差点で、赤信号を自転車で横断しようとした女子高生が車にはねられ死亡する事故がありました。
ニュースの内容は下記の通りです。
2018年8月、松茂町中喜来の国道を自転車で横断していた女子高校生=当時(15)=をはねて死亡させたとして、自動車運転処罰法違反(過失致死)罪に問われた徳島市徳島町、会社社長の男性(49)の判決公判が22日、徳島地裁であった。佐藤洋介裁判官は「過失は認められない」として、無罪(求刑罰金30万円)を言い渡した。
判決理由で佐藤裁判官は、自転車が赤信号で進行したことに触れ「(車の運転中は)自転車が赤信号に従って横断を差し控えると期待、信頼するのが通常だ」と指摘した。
前方不注意による注意義務違反との検察側の主張に対しては「まっすぐ前を向いた状態で自転車は視界に入らない。反射板の光を直ちに識別するのは容易ではなく、自転車の存在を予見できたか疑いが残る」と退けた。その上で「(今回の事故は)誰も悪くなかった」と述べた。
判決によると、18年8月6日午後9時35分ごろ、国道11号を青信号で南に向かっていた乗用車と、東に横断していた女子高校生の自転車が衝突し、女子高校生が死亡した。
徳島地検の花輪一義次席検事は「判決内容を精査し、上級庁とも協議の上、適切に対応したい」とした。
無罪男性「真摯に受け止める」 被害者父は「言葉見つからず」無罪判決を受け、男性は閉廷後に徳島市の法律事務所で取材に応じた。「安堵している」と述べる一方で、「私の車で相手が亡くなったのは事実。真摯に受け止めており、道義的責任を感じる」と語った。「運転するのが怖くなった」と事故後を振り返り、「検察は控訴しないでほしい」と訴えた。
木村清志弁護士は、事故後の実況見分で誘導尋問があったと指摘し、「警察のずさんな捜査で作った調書を前提に、強引に起訴してしまった事案だ」と批判した。
一方、女子高校生の父親(37)は「何らかの罰を受けてほしかった。1人が死んでいるのに無罪なのか。(娘に掛ける)言葉が見つからない」と無念の表情を浮かべた。
引用元:徳島新聞
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200123-03313209-tokushimav-l36
概要としては、「2018年8月に徳島県松茂町の国道11号交差点で、赤信号を自転車で横断しようとした女子高生が車にはねられ死亡する事故があり、徳島地裁は22日、自動車運転処罰法違反(過失致死)の罪に問われた乗用車の男性(49)に無罪判決を言い渡した 」というものです。
このニュースがきっかけで、ツイッター上でもいろいろな声が上がっています。
「車が悪くないの当たり前」、「自転車が赤信号で交差点に進入したから悪くて当然」というような声が多く見受けられました。
3.徳島での女子高生の自転車死亡事故の考察
今回の事故を考察していきます。
まず交通事故を起こした場合は、3つの責任を負うと言われています。
- 刑事上の責任
- 行政上の責任
- 民事上の責任
の3つです。
①の刑事上の責任に関しては、刑事罰をともないます。
過失により交通事故を起こし、人を死傷させた場合は、過失運転致死傷罪に問われ処罰の対象になり、無免許運転や飲酒運転等の過失がある場合はさらに重い危険運転致死傷罪の責任が問わることになります。
まさに今回は刑事責任で、この過失運転致死傷罪に問われ 、刑事裁判が行われていた訳ですね。
ちなみに過失運転致死傷罪は前方不注視やハンドル操作ミス、脇見運転などによって人をはねたり他車に衝突したりした場合などに適用される刑事罰です。
過失運転致死傷罪 の罰則は7年以下の懲役・禁固又は100万円以下の罰金刑が科せられます。
これらを踏まえ、今回の裁判所の判決をみていきますと、 乗用車の男性(49) にこの過失運転致死傷罪には問えないという判決を徳島地裁は下したのですね。
理由は 「自転車が赤に従って横断を差し控えるものと期待、信頼するのが通常」であり、「前照灯の光や反射板を踏まえても、自転車の存在を予見できたか疑いが残る」 と裁判官が判断をしたからです。
要するに、乗用車の男性(49) に落ち度はなかったと結論を下したのです。
今回の件で何がすごいかと言いますと、 乗用車の男性(49)に予見性や注意義務がなかったとはっきり結論づけていることなんです。
民事裁判では、絶対にありえないことをこの徳島地裁の裁判官は言い切ったところが、今回の判決ではすごいことなんですね。
4. 民事上の対応
民事上の対応を解説していきます。
誤解をしていただきたくないのですが、刑事で無罪となったからと言って、民事で車の運転手に過失割合が一切ないと言っているわけではないという事です。
刑事裁判では、損害賠償についての審理は行われません。
過失割合が何対何という破断は、あくまでも民事上で賠償金額を決めるための手段として決めるだけであって、刑事裁判ではこのような過失割合が問われることはありません。
今回の事故現場は「徳島県松茂町の国道11号の交差点」ですが、この11号線は片側3車線あるかなり大きな道路でして、交通量も多い幹線道路に分類されます。
また事故の状況は、
18年8月6日午後9時35分ごろ、国道11号を青信号で南に向かっていた乗用車と、東に横断していた女子高校生の自転車が衝突し、
とのことですので、十字路交差点の出会い頭事故が該当し、判例タイムズ296図か236図の「車が交差点の青信号を直進、自転車が赤信号で横断をする判例」と想定できるのですが、その場合、
A:B=75:25になります。
判例タイムズ296図
A:B=80:20になります。
判例タイムズ236図
引用元:交通事故オンライン
http://www.jiko-online.com/jiasi4.htm
のような過失割合の判例になります。
ですので、民事上はこの過失割合からスタートするようになります。
今回の件で刑事上で無罪になったからと言って、民事で運転車が無過失で0:100になったと言うものではないので、注意が必要です。
ただ個人的には、今回の事故でも民事で争ったらどの様な判決が下るのかをすごく興味があります。
民事と刑事は連動していないとは言いつつも、ここまでセンセーショナルな判決を刑事で言い渡されていれば、少なからず民事でも影響するのでは?と思ってしまいますし、期待してしまいます。
ただ、2018年8月の事故ですので、既に民事に関しては示談している可能性が高いですが…
5. 自転車事故の現状
最後に今の自転車事故の現状を書きたいと思います。
現在はこの「自転車事故に関する安全意識の絶頂を迎えようとしている」というのが、僕の印象です。
警察庁の報告によると、平成30年までの自転車乗用中の交通事故件数は、減少しています。
引用元:警察庁
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/anzen/anzenundou/jitennsyajikobunnseki.pdf
2015年6月1日から施行された改正道交法以降、警察でも自転車の危険運転を厳しく取り締まるようになり、そのかいもあって死亡・重傷事故は減少傾向にあります。
また2015年10月に兵庫県で自転車保険の加入が義務づけられて以降、埼玉県・神奈川県・大阪府・京都府など、全国の自治体で自転車保険の加入義務化が広まっています。
まさにこの自転車での交通事故による意識は、この法改正や自転車保険の義務化を境に過渡期に来ています。
この流れが、まさしくこの刑事での判決にでたという印象です。
今後、さらにこの判例を基に厳しく自転車事故を取り締まることが予想できます。
自転車に乗られる際は、しっかりと交通ルールを守って運転を行いましょうね。