1. 三重県津市の146キロで5人を死傷させた事故を解説します!






1-1. この記事の目的

この記事では「三重県津市の146キロで5人を死傷させた事故」ついて詳しく解説をします。
この記事の目的は3つあります。
- 三重県津市の146キロで5人を死傷させた事故の概要がわかる。
- 三重県津市の146キロで5人を死傷させた事故の判決理由がわかる
- 民事上での三重県津市の146キロで5人を死傷させた事故の対応がわかる。
では早速みていきましょう。

損害保険業界に10年居座り続けた出島Zです。元々は生命保険の営業を行っており、その後某外資系自動車保険会社に入社し、交通事故の査定業務、示談交渉を行なっていました。物損担当者・人身損害担当者を経験し、年間600件以上の交通事故を解決に導いてきました。正確に数えてはいないですが、トータル5,000件以上は確実に示談を行ってきました。損保を2社渡り歩きました。FP資格、損害保険募集人(自動車保険、火災保険、傷害疾病保険)、生命保険募集人、共済募集人、高校教員免許保持者。趣味は音楽鑑賞、作成、DJ、ブログ、インテリア、グラフィックデザインです。
2. 三重県津市の4人死傷事故の概要

三重県津市の146キロで5人を死傷させた事故の概要です。
2018年12月、三重県津市の国道23号を猛スピードで走り去る白のベンツ。300メートルほど先でタクシーと衝突し、タクシーの運転手と乗客だった大西朗さん(31)ら、あわせて4人が死亡、1人が重傷を負いました。
タクシーは道路沿いの店を出発し、中央分離帯の切れ目から反対側の車線に出ようとしたところ、ベンツと衝突したのです。
ベンツを運転していたのは、三重県津市の元会社社長・末広雅洋被告(58)。
末広被告は、ベンツを制御が困難な時速146キロで走らせ、タクシーと衝突し4人を死亡1人に重傷を負わせたとして「過失運転致死傷罪」よりも重い、「危険運転致死傷罪」で起訴され、6月2日、津地方裁判所で裁判員裁判が始まりました。
法廷で末広被告は、事故が起きたことは認めたものの「146キロで運転した認識がなかった」と話した他、弁護側は「現場は直線道路で制御できる運転だった」と主張。危険運転ではなく過失運転=つまり不注意が原因だったとして、執行猶予付きの判決を求めました。
危険運転致死傷罪は、最大で懲役20年となりますが、過失運転致死傷罪の場合は最大でも懲役7年です。
検察側は「道路では他の車も走行していて、146キロでの走行はわずかなミスで制御困難になる運転だ」として、危険運転致死傷にあたると主張。懲役15年を求刑しました。
そして、16日、津地裁の柴田誠裁判長は「被告人の運転行為は制御困難なものだった」としたものの、「危険な状況が発生すると頭に思い浮かべていたか、疑いが残る」として、末広被告が危険性を認識していなかったと判断。
危険運転致死傷罪は成立せず、過失運転致傷罪にあたると結論づけ、その上で「過失運転の事案で類を見ない」として、この罪では最大刑となる懲役7年を言い渡しました。「国道23号で146キロで走って、危険ではないのなら何なのか。ただのスピード超過ではおかしい。判決は受け止められない」
引用元:CBC NEWS
https://hicbc.com/news/article/?id=0004E26B
事故の状況としては、「2018年12月29日夜、津市本町の国道23号で、ベンツを運転していた末広雅洋被告が時速約146キロで運転し、国道23号の路外から対向車線上の道路へ横断していたタクシーの右側面にぶつかり、運転手と乗客3人の計4人を死亡させ、別の乗客1人に重傷を負わせた」ものです。
また、この事故の被告に対して津地裁は「危険運転致死傷罪は成立せず、過失運転致傷罪にあたる」と結論づけ、その上で「過失運転の事案で類を見ない」として、この罪では最大刑となる懲役7年を言い渡しました。
3. 三重県津市の4人死傷事故の状況

今回の事故の状況ですが、 片側3車線ある第1車線を加害車両が140キロ相当のスピードで走行している際に、路外の飲食店から対向車線上へ渡るために車両を横断していたタクシーに衝突したものです。

また車両の状況として、ベンツは前方の骨格が激しく破損しており、相当なスピードで走行していたことがわかる状況です。
もちろん一目全損です。

またタクシーに関しても、右側面の骨格が明らかに歪んでおり、3時の方向から相当な衝撃があったことがわかります。

4. 三重県津市の4人死傷事故の民事上の処分

事故の民事上の過失割合についての考察です。
この過失割合を聞かれると、気分を害される方がいらっしゃると思いますが事実なのでお伝えしますと、
今回の事故での過失割合は、ベンツ40: タクシー60です。
※ちなみに同乗されていた方は過失割合が0です。
理由は、「判例タイムズ147図」を引用するとそうなるからです。
このような交通事故で過失割合を判断する際に、「過去の判例」を基に過失割合を判断していくのですが、保険会社や弁護士、また裁判所でもこの判例タイムズとよばれる判例集が用いられます。
この「判例タイムズ147図」では、元々はベンツ20: タクシー40という割合からスタートしていきます。
理由は、このような片側3車線あるような明らかな優先道路と呼ばれる国道では、直進車が絶対的に優先され、直進車を妨害してはいけないところからスタートしていきます。
そう考えますと、路外からこの優先道路を直進していたベンツをタクシーが進路妨害をしてしまったという話になってしまうのですね。
ではベンツの146キロ相当のスピード違反はどこにいったの?
と思われると思います。
ここは、「判例タイムズ」上で各項目で過失修正を行っており、
今回の場合は、30km以上の速度違反が修正項目として課され
ベンツ側に+20%の修正が施されます。
たったの20%!?
と思われるかもしれませんが、民事上では過失修正は事細かにルールが決められていて、20%も修正できる方がむしろ良い方です。
「判例タイムズ」上の過失20%の他の修正としては、
飲酒運転、居眠り運転、無免許運転
などが挙げられますので、これ相当の過失修正として考えた場合には妥当な修正となってしまいます。
今回の判例では、ベースとなる考え方として
「優先道路の直進車優先」
が根底にありますので、そのように考えた場合に今回の過失割合である
ベンツ40: タクシー60
は妥当な考え方になるのです。
5. 三重県津市の4人死傷事故の刑事上の判決

結果的に津地裁はベンツを運転していた末広被告には「危険運転致死傷罪」が成立しないとのことで、懲役7年を言い渡していました。
この事故で、検察側は「危険運転致死傷罪」で懲役15年を求刑し、これが認められなかった場合は、過失運転致死傷罪にあたるとして「予備的訴因」を追加しており、この罪では懲役7年を求刑していました。
また公判では、ベンツを運転していた末広被告の運転が「進行を制御することが困難な高速度」だったか、またその危険性を認識していたかどうかが主な争点となっていました。
結果的に判決で、柴田裁判長は、時速146キロでの運転は、今回の国道の法定速度(時速60キロ)を大きく超過し、事故を回避するための適切な車線変更ができないとして「物理的には制御困難な状態だった」と指摘している一方で、事故の危険性については「『具体的な可能性として、(被告が)現実に頭に思い浮かべていた』、すなわち犯罪の故意があったと認定するには合理的な疑いが残る」と述べ、「危険運転致死傷罪」は成立しないと結論づけていました。
ちなみに、2018年の「危険運転致死傷罪」の適用件数と率の状況は、
2018年の危険運転致死傷罪の適用件数
1. 信号の殊更無視 169件(48.0%)
2. アルコールの影響 105件(29.8%)
3. 妨害目的 25件(7.1%)
4. 制御できない高速度 21件(6.0%)
5. 通行禁止道路進行 18件(5.1%)
6. 薬物の影響 12件(3.4%)
7. 無技能 2件(0.6%)
(出典:警察庁「平成30年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」)
まだまだ高速度での「危険運転致死傷罪」の適用が少ないことが現状としてあります。
6. 三重県津市の4人死傷事故の考察
もちろん、僕もこの判決には納得はしてませんが、僕なりの考察をお伝えしますと、
おそらく今回の根底に民事上の「優先道路の直進車優先」が少なからず影響しているのかなと考えています。
今回の事故では、タクシーにも十分な過失が存在しています。
今回の報道では指摘する人は誰もいませんが、タクシー側も左右をしっかり確認したうえで国道を横断していれば、事故は回避できたということも事実としてあります。
もちろん、同乗されていた方には何ひとつ落ち度はありませんし、一番の被害者になり、本当に悔やまれる事故です。
ただ、実情で言いますと路外から優先道路を横断する車両は進路妨害に値する過失がある以上、刑事上での処罰も被告へ「危険運転致死傷罪」を突きつけるのは難しかったのではないのかなと思います。
もちろん、僕も被告のスピード違反がなければ、死者は出なかったと考えますし、今回の被告の行為は「危険運転致傷罪」が成立すると考えていますが、これまでの判例や道路交通法を加味すると、その判決は難しかったのではないかと考えます。
遺族や検察側としては、控訴して争っていただきたいと思いますし、またお亡くなりになられた方々には、心からご冥福をお祈りします。