交通事故による逸失利益とは(難しい議題です・・・)
後遺障害の話を前回しましたが、引き続き今回は「逸失利益」についてお話します。
後遺障害が認定されるような怪我を交通事故で負ってしまった場合、被害者は普段の生活の中で当たり前にしていたことができなくなってしまいます。
仮にお仕事をしていた方や、今後お仕事をしようと思っていた方からすると、事故によって作業効率が下がってしまい、それに伴い、お給料や収益が減ってしまうことが予想できますよね。
ですので、交通事故で後遺障害が認定された場合は、
後遺障害の等級に応じた「労働喪失率」
というものと、
働くことが困難であろう「期間」
と
自身が得ていた労働収入(利益)もしくは得るはずであった労働収入(利益)
を計算し、
事故がなければ得られたであろう労働収入(利益)を「逸失利益」という項目で受け取ることができるのです。
基本収入×労働喪失率(※1)×労働喪失期間=逸失利益
という計算方法にて逸失利益を出します。
労働喪失率(※1)の考え方
年収300万円の人が、交通事故にあわなければ、年収の300万円を100%を受け取ることができるはずですが、交通事故により後遺障害が認定される方の場合、後遺障害の等級に応じた労働率が損なわれてしまうというという設定になっています。
後遺障害1級は、かなりの重症になるのですが、その場合は労働喪失率は100%になります。
交通事故により両目が見えなくなってしまうのは後遺障害1級なのですが、今まで目が見えていて、仕事をしていた方がいきなり失明してしまいますと、仕事どころか生活まで侭ならなくなってしまいますよね?
ですので年収300万円の方が後遺障害1級が認定されれば、年収300万×100%補償されることになります。
ちなみに、労働能力喪失率は,(労働基準監督局長通牒 昭32.7.2基発第551号別表)に基づき決めていきます。
下に後遺障害の等級別の労働喪失率を記載しておきます。
等級 | 労働喪失率 |
第1級 | 100% |
第2級 | 100% |
第3級 | 100% |
第4級 | 92% |
第5級 | 79% |
第6級 | 67% |
第7級 | 56% |
第8級 | 45% |
第9級 | 35% |
第10級 | 27% |
第11級 | 20% |
第12級 | 14% |
第13級 | 9% |
第14級 | 5% |
喪失期間の考え方
逸失利益は、今後得られるであろう利益を保険会社はまとめて全額支払います。
その為に、利息も含めた金額がまとめて支払われてしまうのですね。
その期間その期間の利息を控除しないと、被害者はその間その間の利息を別途得てしまうこととなってしまいます。
この将来利息による増額分を逸失利益から控除する必要があり、将来利息分を控除することを中間利息控除といいます。
そして、交通事故の逸失利益の計算では、ライプニッツ係数という、中間利息を控除するために使う係数を用い、逸失利益を算出します。
また労働能力喪失期間はどのくらいの期間を設定するのかと言いますと、稼働可能期間までと考えられています。
稼働可能期間と言うのは、人間が働ける年齢の事なのですが、67歳までと考えられていまして、60歳近い人の場合には余命年数の半分くらいの期間を稼働可能と定めています。
仮に20歳の人が後遺障害の等級が認定された場合、労働喪失期間は47年間(稼動可能期間67歳-20歳)となります。
ですが、
保険会社の実務では、後遺障害の等級すべてにおいて、稼動可能期間の67歳までの期間を認めるという事はほぼありません。
よく色んな弁護士事務所のサイトを見ていますと、労働喪失期間があたかも67歳まで認定できるかの様に書かれていますが、それは大きな間違いです!
任意保険の基準が各社定められていまして、どこの保険会社も、被害者の後遺障害等級と年齢に応じた設定額の幅がありまして、その中間値を労働喪失期間としています。
ですので、67歳までの逸失利益が認定される訳ではありませんので注意が必要です!
労働喪失期間のライプニッツ係数
先ほども書きました様に、労働喪失期間は期間に応じたライプニッツ係数を使っていくことになります。
仮に後遺障害14等級の認定がおりた年収300万円の被害者で、喪失期間2年の場合、
年収300万円×労働喪失率5%×喪失期間2年1.8594=278,910円
となります。
278,910円が逸失利益になるという事になります。
余談ですが、後遺障害の14級9号という等級が、よくむち打ち症や打撲傷の方に多い神経症状の後遺障害等級なのですが、大体の保険会社は喪失期間を1〜3年で認定していますね。
また下記に喪失期間のライプニッツ係数を記載しておきます。
1)18歳以上の方に適用する表
年齢 | 就労可能年数 | 係数 | 年齢 | 就労可能年数 | 係数 | 年齢 | 就労可能年数 | 係数 |
18 | 49 | 18.169 | 46 | 21 | 12.821 | 74 | 6 | 5.076 |
19 | 48 | 18.077 | 47 | 20 | 12.462 | 75 | 5 | 4.329 |
20 | 47 | 17.981 | 48 | 19 | 12.085 | 76 | 5 | 4.329 |
21 | 46 | 17.880 | 49 | 18 | 11.690 | 77 | 5 | 4.329 |
22 | 45 | 17.774 | 50 | 17 | 11.274 | 78 | 5 | 4.329 |
23 | 44 | 17.663 | 51 | 16 | 10.838 | 79 | 4 | 3.546 |
24 | 43 | 17.546 | 52 | 15 | 10.380 | 80 | 4 | 3.546 |
25 | 42 | 17.423 | 53 | 14 | 9.899 | 81 | 4 | 3.546 |
26 | 41 | 17.294 | 54 | 13 | 9.394 | 82 | 4 | 3.546 |
27 | 40 | 17.159 | 55 | 13 | 9.394 | 83 | 3 | 2.723 |
28 | 39 | 17.017 | 56 | 12 | 8.863 | 84 | 3 | 2.723 |
29 | 38 | 16.868 | 57 | 12 | 8.863 | 85 | 3 | 2.723 |
30 | 37 | 16.711 | 58 | 11 | 8.306 | 86 | 3 | 2.723 |
31 | 36 | 16.547 | 59 | 11 | 8.306 | 87 | 3 | 2.723 |
32 | 35 | 16.374 | 60 | 11 | 8.306 | 88 | 3 | 2.723 |
33 | 34 | 16.193 | 61 | 10 | 7.722 | 89 | 2 | 1.859 |
34 | 33 | 16.003 | 62 | 10 | 7.722 | 90 | 2 | 1.859 |
35 | 32 | 15.803 | 63 | 9 | 7.108 | 91 | 2 | 1.859 |
36 | 31 | 15.593 | 64 | 9 | 7.108 | 92 | 2 | 1.859 |
37 | 30 | 15.372 | 65 | 9 | 7.108 | 93 | 2 | 1.859 |
38 | 29 | 15.141 | 66 | 8 | 6.463 | 94 | 2 | 1.859 |
39 | 28 | 14.898 | 67 | 8 | 6.463 | 95 | 2 | 1.859 |
40 | 27 | 14.643 | 68 | 8 | 6.463 | 96 | 2 | 1.859 |
41 | 26 | 14.375 | 69 | 7 | 5.786 | 97 | 2 | 1.859 |
42 | 25 | 14.094 | 70 | 7 | 5.786 | 98 | 2 | 1.859 |
43 | 24 | 13.799 | 71 | 7 | 5.786 | 99 | 2 | 1.859 |
44 | 23 | 13.489 | 72 | 6 | 5.076 | 100~ | 1 | 0.952 |
45 | 22 | 13.163 | 73 | 6 | 5.076 |
2)18歳未満の方に適用する表
年齢 | 幼児・児童・生徒・学生・右欄以外の働く意思と能力を有する者 | 有職者 | ||
就労可能年数 | 係数 | 就労可能年数 | 係数 | |
0 | 49 | 7.549 | 67 | 19.239 |
1 | 49 | 7.927 | 66 | 19.201 |
2 | 49 | 8.323 | 65 | 19.161 |
3 | 49 | 8.739 | 64 | 19.119 |
4 | 49 | 9.176 | 63 | 19.075 |
5 | 49 | 9.635 | 62 | 19.029 |
6 | 49 | 10.117 | 61 | 18.980 |
7 | 49 | 10.623 | 60 | 18.929 |
8 | 49 | 11.712 | 59 | 18.876 |
9 | 49 | 11.712 | 58 | 18.820 |
10 | 49 | 12.297 | 57 | 18.761 |
11 | 49 | 12.912 | 56 | 18.699 |
12 | 49 | 13.558 | 55 | 18.633 |
13 | 49 | 14.947 | 54 | 18.565 |
14 | 49 | 14.947 | 53 | 18.493 |
15 | 49 | 15.695 | 52 | 18.418 |
16 | 49 | 16.480 | 51 | 18.339 |
17 | 49 | 17.304 | 50 | 18.256 |
(注)小数点以下第5位を四捨五入しています。
参照
https://www.aozora-legal.com/研究/民法改正-債権法-の研究/民法改正とライプニッツ係数/
まとめ
・後遺障害が認定された場合は慰謝料と逸失利益が賠償される
・逸失利益は基本収入×労働喪失率×労働喪失期間で導き出せる。
・保険会社は、後遺障害等級が認定されても、就労可能年数67歳までを認定しない。
後遺障害の逸失利益はさらに奥が深いため、またいずれかの機会で話をしたいと思います。